2021年に「東京ラブストーリー」を観る

2021年に『東京ラブストーリー』を観てみたら,ストーリーがわからなかった.結論を先取りしてしまうけど,この物語を楽しむためには時代が経ちすぎてしまったということだ.

 

ストーリーがわからない,より正しくいうと,「このドラマで描かれる”恋愛”がわからない」.別に,作品を楽しむために必ずしも「わから」ないといけないわけではない.共感なんて全然できなくても,それどころか何いってるかサッパリわからなくてもおもしろい作品なんてその辺にいくらでも転がっている.けれどこの作品は,少なくとも当時はOLたちに「共感」を持ってむかえられ,月曜の夜にはOLが街から消えると言われ,彼らの織りなす人間模様に涙したというのだから,そういう楽しみ方を期待してもバチは当たらないだろう.

というか,そのような楽しみ方が一般的だと想定していたのだ.

 

どうしてこのドラマで描かれる恋愛が「わからない」のか.個人的には「感情が唐突すぎる」からだと感じている,

出会って一週間も経っていなさそうだし,詳しい動機はイマイチよくわからないままカンチをちょっとおかしいくらいに好きになるリカ.さとみのことをずっと好きだったと言いつつ,そして大好きな親友であるカンチから奪いつつ,それでもなぜかさとみと膝突き合わせて話すことはせずに(仮にも幼馴染なのに!)別の女にうつつを抜かす三上.そして,現代の女性(主語がでかいが,私のことだ)がなにより理解できないのは,カンチからさとみに対しても結局「こういう”女の子”が好き」という好きなタイプの話から一切外に出ているように見えないことだろう.カンチはさとみが好きなんじゃなくて,さとみのような,つまり人前でさくらんぼのタネを出すのを恥ずかしがるような古風で3歩下がった女,しかも肉じゃが作って家まで持ってきてくれる女,そういう女なら誰でもかまわないんじゃないか?という疑念.結局のところ,「だれかがだれかを好きな理由」がきわめて曖昧なのだ.

 

現代人は(これも主語がでかいが,まあ私のことだ),この唐突さを理解できない.唖然として眺めていることしかできない.感情移入もなにもあったもんじゃない.

この感覚が,それでもやっぱり現代人がある程度共通して持っているものなんじゃないか?と私は考えているが,その証拠の一つは,坂元裕二氏の最近の作品にある.

たとえば,『カルテット』では,登場人物がだれかを「好きカナー」となるまでにそれなりの時間を費やしていた.そもそも人間関係自体がちょっとずつ深まっていく作品だった(しばらく前に一度見たきりなのでうろ覚えですが・・・).『花束みたいな恋をした』では,恋に落ちるまでは早かったけれどそれなりに納得いく理由が提示されていた.まあ,最近でもとらのあな婚活とかがそこそこ流行っているように,「共通の趣味がある,しかもめちゃめちゃ合う」っていうなら,なるほど仲良くなるに十分な理由になるだろう.

坂元氏以外の作品でも,近年大ヒットした結婚ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」も,初めは契約結婚の家政婦としてみくりが「就職」するところから話が始まる.依頼人である平匡との時間が増えるにつれて,ちょっとずつ二人の仲は縮まっていき,好きになる,という筋書きだ.

「一目惚れ」的パターンは,男と女がいれば自動的に好きになるものだ,というような杜撰なパターンはもう古いというわけ.

 

古い,新しいというのは,そういうお約束が通用しなくなった,という話だ.別に,バブル時代のリアル人間たちもフィクション同様猫も杓子も「一目惚れ的恋愛」をやっていたというわけでもないだろう.そういう意味では彼ら彼女らが「一目惚れ的恋愛」そのものに共感していたかはよくわからない.

けれど,そこに恋愛が発生しているという合意さえ取れれば,恋愛の始まり方はなんでもいいというような前提は少なくともあったと思う.

それは単純に,恋愛する人が今より多かったからだ.恋愛というテーマ自体が,誰でも直面しうる普遍的なものだったからだ.

 

出生動向基本調査(1992)によると,未婚者のうち交際相手がいないと答えた男性は47%,女性は39%だった.(それでも未婚者のうち約半数は,少なくとも調査時点に交際している相手はいないことにはなる)

それに比べて(2015)では,未婚者のうち交際相手がいないと答えた男性は70%,女性は59%だ.しかも,交際相手がいない人のうち今後も交際を望んでいないという人は男性では30%,女性では26%になっている.

未婚者自体の母数が年々割合として増えていることを考えても非常に大きな変化だ.

 

恋愛というテーマが普遍的なものでなくなっていくにつれて,恋愛それ自体ではなく別の部分で共感を集めようという動きが出てくることにも納得がいく.つまり,「恋愛に至るまでの関係性の深まり」であり,「あるひとを好きになるに至る,説得力を持った理由」だ.恋愛をしたことがなくても,極端な話友人が一人もいなくても,「こういうことがあれば仲良くなりたいと思うだろうな」というのはだいたい理解できるし,共通だろう.これらはボーイズラブによく見られるパターンだ.ボーイズラブでは,「もともとゲイというわけではないけど,xxのことは好きだ」という,「この人だからこそ」というパターンが特徴的だ(溝口彰子「BL進化論」を参照),そして,すぐに関係を持つパターンはあれど,好きだと自覚するまでに時間をかけ丁寧に描写している作品も多い.ボーイズラブの魅力は「カップルの関係がより対等なものであること」であり,また自分の女性性に違和感を持っている人が,女性性というノイズに煩わされずに恋愛作品を楽しめるという部分にももちろんあるのだが,「なぜ,この人なのか?」「そもそも,好きってなんだろう」と掘り下げていく作品も多く,それもボーイズラブ作品の魅力の一つだ.恋愛をしない人が増えた現在では,ボーイズラブだけではなく異性同士の恋愛を描いた作品であっても,恋愛それ自体というよりも「そもそも恋愛ってなんなんだ?」「なぜ,ある人はあるひとを好きになるんだ?」というテーマを掘り下げたほうが共感や感情移入が生まれやすくなっているのではないだろうか.

 

結論・・・というのでもないが,というわけで「東京ラブストーリー」は,2021年に観るには少しテーマとお約束が古い.恋愛に関する”お約束”や恋愛自体以外のテーマとしては,「仕事を選ぶか,恋を選ぶか」というものがあると思うが(現に,このドラマでは仕事と恋を両取りすることはできないことになっている.リカがロス行きを選んだ時点で,リカの恋は終わるのだ),これだって現代であれば,いやいや両方選ぶことはできるよ,女で仕事をしている/続ける=バリキャリ志向ってことでもないよ,という話になってくる(そしてそもそも,仕事と趣味を楽しみたい,恋は必要ない,という層も増えているのだ).これに関してもちょっと古いかなという感じで,不朽の名作,には残念ながらなっていない作品だった.坂元裕二の原点を見られたことはよかったけど.

 

 

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