2021-07-13 心が乏しい

松浦理英子「最愛の子ども」。

 

特に前半はぞわぞわするようなホラーで、同級生の女たちの擬似家族の関係を通じて実際の家族のグロテスクさ(どんなにグロテスクな言動、行動も、普段は"家族"というキラキラコーティングされた言葉で隠されている)が目の前に突き付けられる。正直、読むのが辛かった。

 

後半は家族の比較的明るい面が描かれている。和解の可能性。

 

こういったメインの部分もかなり刺さる作品ではあったのだけれども、自分の心に深く刺さったまま離れないのは、物語中で存在感をある程度発揮しながらも、完全に輪の外に置かれている「苑子」だ。

彼女に関する記述はこう。

いわゆる〈天然〉で会話をするといつもずれた反応が返って来て、しかもずれ方に面白味がなくちょっといらつかされるため、勝手な話だけれどじきに失望して特別視しなくなった。 

 

『いいことばっかりは続かないよ。栄枯盛衰だね』って、相変わらず自分は全く関係ないってふうに」
> 「苑子最強」日夏は笑った。「大勢の男たちを従えた鞠村の思い通りにならないんだもんね」
> 「心が乏しければ乏しいほど強いのかもね」美織も笑いながら同意した。

苑子、どうしたんだろ。ついに人間性に目覚めたのかな.聞いて来る」
> ・・・
> 誰かを嫌うほど感情豊かじゃないでしょ、あの子は。もう忘れてるよ」 

 

「しょうがないよ。苑子はああいう子だから」
> 「愛情かけても無駄無駄。絶対通じないよ」
> 「何て言うか、手ごたえのない子だよね
> 「恋愛にしろ友情にしろ親密な関係なんか持たないし、持てないし、望んでもいないだろうね」
> 「まだ見切りつけないの? 弄んですらくれない子なのに」
> 希和子は困った顔で口を開いた。
> 「わかってる。そういうこと全部わかってるけど、悪い子じゃないじゃない。人を攻撃しないし、来る者は拒まず去る者は追わずだし、 嘘つきでもないし、かっこつけてもないし、あのまんまの子でしょ」
> 「そりゃ他人に興味ない子だから」草森恵文が指摘した。
> 自分自身にも興味なさそうなところは偉大にさえ見えるよね」
> 「そうなの。どことなく大物感があるの」わが意を得たりとばかりに領いた希和子は、小さな声でつけ足す。 「アホなんじゃないかとげんなりする時もあるけど」 

 

 

酷い言われようだ。

「心が乏しい」だって。

何がきになるって、この苑子、自分にとても似ているのだ。特に、それこそ中学~高校のころの自分に。

 

自分の身に起こっていることでもどこか他人ごとで、会話をするといつもずれた反応をかえしちゃって、だけど他人にも自分にも興味がないから"悪い子じゃない"なんて言われている(でも、つまんないからそれ以上に好意的な感情は抱かれない!)

こういう子って、たしかに存在するんだけど、我々"こういう子"本人以外はこうやって描こうとすら思わない忘れられた存在だとおもってた。こういう子を登場させられるんだ、させてくれるんだ、次作ではもっとほりさげてみてほしい…ってのはわがままかな。自分にはまだ、うまくわたしたちのことを分析できないから。